[著者: 富家直明 (北海道医療大学心理科学部教授) more.. ]
”人生は原因選びの連続であり、日々の原因選びが人生を左右する”
先日、女子高生のあとをつけて歩いていた。
と言えば人聞きが悪いので、正確に言い直すと、ある日の歩道上で、偶然、私の前を1人の女子高生が歩いており、歩みの速度はほぼ同じ。
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彼女がどこに向かっているのかは知らぬが、しばらくの間、私も同じ方向に同じ歩調で進んでいた。
いや、白状すれば、ほっそりした手足の長い、腰を振ってモデルのような歩き方をする彼女の姿から、きっとかなりの美人ではないだろうかと勝手な妄想をしておりました、ハイ。変質者は見た目ではわかりまてん。
いったい、どれだけ歩く後ろ姿をガン見していただろうか。ふと雨が降ってきた。
小雨がだんだん大粒になり、やがてバチバチと音を立てて服を濡らした。
この数年、日本列島はスコールのような雨に見舞われることがたびたびある。
私は幸い、傘を持っていた。
雨に降られたのはお母さんのせい?
彼女が取り出したのは傘ではなくケータイである。
「お母さん! ねえ、ちょっとオッカアさん! スッゲエ雨が降ってきちゃったよ! ゲエ~もうびちゃびちゃなんだけど、なにこれ!もうなんでアタシに傘もたせてくれなかったわけ! 雨ふるっていわなかったじゃん! ヒドイよもう!!」
って、おまえがひどいよ。
女子高生のブラウスが雨に濡れるシチュエーションに興奮するどころか、私はどん引きした。
傘を持たないで出たことを母親に責任転嫁しているではないか。
しかもひどい言葉遣いで。
オロオロと謝り続ける電話口の母親の姿が目に浮かんだ。
うん、この子の顔を確かめなくて良かった。きっと怪獣だったハズだ。
原因帰属~原因の選び方
原因帰属の他罰型
今回は原因の選び方、すなわち『原因帰属』のはなしをしよう。
人はとっさの場面でなんらかの原因を想像する。
急な雨にあたって、誰かのせいにするこの子のようなタイプを原因帰属の他罰型という。
こういう人は年中、誰かのせいにしてイライラしている。
私たちがイラッとしたり、ムカッとしたときは、たいてい誰か他の人のせいにしている時が多い。
そして他罰型はしばしば周囲の人々から嫌われる。まあ、どう考えても、好かれるわけがないわな。
原因帰属の自責型
一方、原因帰属の自責型は、どんなことがあってもひたすら自分を責める。
相手が悪くても、自分を責める。
自尊心はボロボロ、そして、うつ病になりやすい、というパターンが1つ。
これは自責型の中でも能力帰属タイプといわれるものである。
これ以外に行為帰属タイプというものもあり、こちらは落ち込んだりはしない。
前者は文字通り能力や才能に原因を帰属し落ち込むこともありうるが、後者は自分自身の努力や行動に原因を帰属するので、失敗を経験した後にきちんと反省し、次回の糧にできる。
つまり成長するタイプである。私もこうなりたいです、ハイ。
原因帰属の自責型 | |
能力帰属タイプ | 自分の能力や才能に原因を帰属する |
行為帰属タイプ | 自分の努力や行動に原因を帰属する |
原因帰属の運帰属型
運帰属型。運命やツキのあるなしのせいにしてしまうタイプね。
皆さんは占いがお好きですか?
日本には占いのサイトがたくさんあり、あるいはテレビなどでも占いの情報はじゃぶじゃぶと発信されているので、アレは気になり出すとどんどん気になり出します。
かくいう私も、スマホの画面には毎日必ず星座占いの情報が出ており、恋の行方など、本来、不必要な妻帯者であるにもかかわらず、『あなたの出会い運急急上昇!』などという言葉に色めきたったりしておりました。
あの占いってあたります?
社会心理学者の縄田健悟博士が『心理学研究』という雑誌に、1万人規模のデータを分析して、血液型と性格に関係はまったく、これっぽっちもないという血も涙もない結論を公表しちまいましたが、12星座や13星座、はたまた細木数子大先生の六星占術のような細かい分類をした占いがじつのところどうなのかということはわかっておりません。
ただ、1つ注意すべきは、占いの情報に一喜一憂するだけで、自分の行為を反省しない日々を過ごすのであれば成長は期待できないでしょう。
占いのアドバイスに頼りすぎていると、自分から積極的にアクションを起こしにくくなります。
とくに「今日はついていない」と言われた日にはなおさら。
そこで、ある時期、占い漬けを脱出しようと試みた私は、1ヶ月の間、スマホに占いの画面が出ないように設定し、まったく占いの情報に触れないように過ごす実験をひとりで勝手にしてみました。
最初のうちは、不安で仕方なかったですが、何があっても自分でおこなった行動の結果はすべて自分の責任だと観念して、毎日毎日、積極的に自分から振る舞い、失敗したときは自分の行動の何が悪いのかを反省するようにしていたら、いつの間にか自信を取り戻せたとさ。
原因帰属の時間帰属型
時間帰属型。時期やタイミング、年齢、季節等に原因を求めるタイプです。
よくあるのは「年のせい」。
「もう年だからいまさら勉強したってダメよ」という言葉はよく聞きますね。
短期記憶や手際の良さといった流動性知能は60歳を超えて徐々に低下しますが、語彙や判断力などの結晶性知能は比較的良好なまま保たれますので、一概に中高年者が不利だともいえません。
どうでもいいゲームやクラスのLINEにだらだらおつきあいすることもなく、日常の生活習慣のちょっとした隙間の時間にコツコツと勉強をすることを覚えてしまうと、意外と成績は伸びていくものです。
年齢のせいにして、やる前からあきらめるのはもったいないことでございます。
同じ時間への原因帰属ですが、違うパターンを1つ紹介します。
とある日のこと、実習中の看護学生が厳しい毎日に嫌気がさして、もう看護学校を辞めたいと言い出しました。
このような場合、しばしば原因の帰属先は
- 「私、やっぱり向いてない!」(自責型能力帰属タイプ)
- または、「あの指導者、ほんとムカつく!」(他責型)
のどちらかになります。
さて、そこに優しいカウンセラーが登場し、こうささやきました。
「実習は誰にとっても大変なもの。でもこの苦労もあとたった二週間で終わるのよ。二週間なんてあっという間よ!そう考えたら気持ちは楽にならない?しかも、この苦労はきっと後であなたを成長させてくれる栄養になるわ!」
もしこんなアドバイスで気が変わって、実習を継続するようになったとしたら、それは原因の選び方を変えた、すなわち、自責でも他責でもなく、時間に原因を求めたことによって、人生が変わった瞬間です。
自分の原因選びの癖に気づき、それを見直してみると、また違った人生が見えてくることでしょう。
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