よく分かる!ナースプラクティショナー|現状と海外との比較

看護師の仕事
ナースプラクティショナーは看護師の枠を超えて診療が可能な資格です

[著者: 平野雅子 (看護師 /保健師).    more.. ]

看護の専門性が高まるにつれて、キャリアアップを志す看護師さんが増えています。

中でも、一般の看護師の枠を越えて活躍出来る「ナースプラクティショナー」に関心を寄せている人も多いと思います。

ナースプラクティショナーはアメリカなど海外では公的な資格として認められ、看護師でも外来診療や処方ができ医療の現場で大活躍しています。

しかし、日本ではまだ国家資格とはなっていませんので、ふつうはナースプラクティショナーになっても残念ながら、海外のように診療や処方ができるわけではありません。

ただ、日本でも海外のナースプラクティショナーに近い活動ができる病院もあります。

また「どうしてもナースプラクティショナーとして診療や処方をしたい!」と言うことなら海外に留学して資格を取得し現地で働く事も可能です。

日本を離れることに躊躇する場合は現段階では、キャリアアップの方向性として専門看護師などになると言う選択肢も考えられるでしょう。

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ナースプラクティショナーとは

ナースプラクティショナーはアメリカ発祥の資格です。現在では世界各国でナースプラクティショナー制度が採用されており、ナースプラクティショナーは外来診療や投薬を行うことができます。

しかし、日本ではナースプラクティショナーは国家資格ではなく、一般社団法人日本NP教育大学院協議会が診療看護師(NP)として認定しているだけですので、ナースプラクティショナー(診療看護師)の資格を取得しても、海外のナースプラクティショナーのように診療を行えないのが現状です。

日本のナースプラクティショナーと現在の状況

日本のナースプラクティショナーは一般社団法人日本NP教育大学院協議会が診療看護師(NP)として認定していますが、国家資格ではないため、海外のナースプラクティショナーのように診療を行えるわけではありません。

また、ナースプラクティショナー(診療看護師)の資格を取得すれば、ナースプラクティショナーとしての知識や技術を得ることはできますが、実際に患者さんに実施できる医療行為の範囲が広がるというわけではないのです。

日本のナースプラクティショナーとは

日本のナースプラクティショナーは、一般社団法人日本NP教育大学院協議会が診療看護師(NP)という形で認定しています。日本NP教育大学院協議会では、日本の診療看護師(NP)はNP教育課程を修了し、NP資格試験に合格した者で、保健師助産師看護師法が定める特定行為を実施することができる看護師と定義しています。

ナースプラクティショナーは、アメリカをはじめ欧米諸国で採用されていた資格ですが、日本で注目されるようになったのは、厚生労働省が医師の負担を軽くするために看護師ができる医療行為の範囲を拡大する方針を打ち出したためです。

2008年には大分県立看護科学大学大学院でナースプラクティショナー(診療看護師)の養成課程が開設され、日本NP教育大学院協議会によって、ナースプラクティショナー(診療看護師)の資格が認定されるようになりました。

日本のナースプラクティショナーの現状

日本のナースプラクティショナー(診療看護師)は、国家資格ではなく一般社団法人である日本NP教育大学院協議会に認定されているだけの資格ですので、アメリカや海外のナースプラクティショナーのように診察や処方を行えるわけではありません。

日本NP教育大学協議会でも、診療看護師を「保健師助産師看護師法が定める特定行為を実施することができる看護師」と定義づけています。

日本では医師法により、診断や診療、薬剤の処方(医業)を行うことができるのは医師又は歯科医師のみと決められていて、保健師助産師看護師法では看護師の診療等を認めていませんので、日本の法律では看護師がアメリカのナースプラクティショナーのように診療や処方を行うことができないのです。

また2015年10月からドレーン類の抜去や人工呼吸器のウィーニング調節、Aラインの確保など看護師の特定行為の研修が開始になりますが、ナースプラクティショナー(診療看護師)の資格を持っていたからといって、特別扱いをされるわけではなく、きちんと研修を受けないと特定行為を行うことはできません。

【追記】

2015年11月14日に第1回日本NP学会学術集会が開催されました。この学会は看護師の裁量権の更なる拡大、そして日本での診療看護師(NP)の実現を目指すもので、会長の草間朋子氏は、看護師自らの力でNP制度実現に取り組み続ける意欲を見せています。

2015年10月から研修が開始になった「特定行為に係る看護師の研修制度」や今回の第1回日本NP学会学術集会の開催、また医療の人材不足や保健医療政策の転換時期に来ていることを考慮すると、今後、日本でも診療看護師(NP)の需要が高まり、NP制度の実現が実現される日もそう遠くないのかもしれません。

(参考URL:http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA03154_04

海外のナースプラクティショナー

アメリカではナースプラクティショナーは医師と看護師の中間的資格として診療に当たっている

ナースプラクティショナーはアメリカ発祥の資格ですが、現在ではアメリカだけでなく、世界各国でナースプラクティショナーの制度が採用されています。

アメリカを始めとしてナースプラクティショナーの制度があるほとんどの国では、ナースプラクティショナーは一次医療(外来診療)で診察や投薬などを行うことができるのです。

ナースプラクティショナーが誕生した背景と海外での現状

ナースプラクティショナーは1960年代にアメリカで誕生した資格であり、アメリカでは州単位で認定されている正式な資格です。ナースプラクティショナーを採用している多くの国では、ナースプラクティショナーは看護師と医師の中間職、看護師の上級職として位置づけられていて、一次医療(外来診療)で診断や処方、投薬等を行うことができます。

アメリカでナースプラクティショナーの資格が誕生したきっかけは、医師不足と高額な医療費の問題があったためです。これらを解決するためには、看護師に適切な教育を受けさせて、看護師でも一次診療ができるようにする必要があったのです。

このナースプラクティショナーの制度は有効性が認められ、徐々にアメリカ全土に広まり、1988年にはアメリカ全州でナースプラクティショナーの診療行為に診療報酬が認められるようになりました。現在、アメリカでは19万2000人以上がナースプラクティショナーとして活躍しています。

さらに、ナースプラクティショナーは、アメリカだけではなく、イギリスやカナダ、オーストラリア、タイ、イスラエル等の世界各国で採用されていて、多くの国でナースプラクティショナーが診療を行っているのです。

アメリカのナースプラクティショナーの業務範囲

アメリカのナースプラクティショナーは専門分野を持ち、その分野内であれば、一次医療(外来診療)で診察や投薬を行うことができます。

【ナースプラクティショナーができること】
・血液検査やX線検査を行い、その結果に基づいての診断
・糖尿病や高血圧、感染症、外傷などの急性期および慢性期の状態の診断と治療
・薬の処方
・患者の全身の診療とケア
・カウンセリング
・病気の予防と健康促進のための患者教育
(アメリカナースプラクティショナー協会(American Association of Nurse Practitioners)より)
http://www.aanp.org/all-about-nps/what-is-an-np

【ナースプラクティショナーの専門分野】
・救急ケア(Acute Care)
・成人保健(Adult Health)
・家族保健(Family Health)
・老年保健(Gerontology Health)
・新生児集中保健(Neonatal Health)
・がん診療(Oncology)
・小児保健(Pediatric /Child Health)
・精神保健(Psychiatric/ Mental Health)
・ウーマンズヘルス(Women`s Health)
(アメリカナースプラクティショナー協会(American Association of Nurse Practitioners)より)
http://www.aanp.org/all-about-nps/what-is-an-np

これらの専門分野の中では、小児から成人まで幅広く診察できる家族保健(Family Health)のナースプラクティショナーの資格を取る人が最も多くなっています。

日本でナースプラクティショナーとして活躍するには

日本でナースプラクティショナーとして活躍するには、まずはナースプラクティショナーの養成課程がある大学院の修士課程で学び、日本NP教育大学院協議会の試験に合格し、診療看護師(NP)の資格を取得する必要があります。

日本ではナースプラクティショナー(診療看護師)の資格を取得しても、法律上海外のように診療することはできませんが、国立病院機構でならJNP(Japanese Nurse Practitoner)として海外のナースプラクティショナーと同じような活躍の場を得ることができます。

日本でナースプラクティショナーになるには

ナースプラクティショナー養成課程のある大学院を修了する必要があります

日本でナースプラクティショナー(診療看護師)になるには、日本の大学院でナースプラクティショナーの養成課程を修了し、日本NP教育大学院協議会の資格認定試験に合格する必要があります。

日本では2008年に大分県立看護科学大学大学院でナースプラクティショナーの養成課程が作られたのをきっかけにして、現在では全国で7つの大学院の修士課程でナースプラクティショナーの養成課程が開設されています。

【ナースプラクティショナーの養成課程がある大学院】

・大分県立看護科学大学大学院修士課程
http://www.oita-nhs.ac.jp/graduate/np_course.html
・国際医療福祉大学大学院修士課程
http://www2.iuhw.ac.jp/daigakuin/faculty/health_welfare/nurse_p/index.html
・東京医療保健大学大学院看護学研究科修士課程
http://www.thcu.ac.jp/graduate/nursing/master/
・北海道医療大学大学院修士課程
http://www.hoku-iryo-u.ac.jp/~koho/topics/NursePractitioner/
・東北文化学園大学大学院修士課程
http://www.tbgu.ac.jp/faculty/graduate/nurse_practitioner/
・藤田保健衛生大学大学院保健学研究科看護領域急性期・周術期分野
http://www.fujita-hu.ac.jp/department/graduate/health-study/index.html
・愛知医科大学看護学研究科高度実践看護師(看護師特定能力認証コース)
http://www.aichi-med-u.ac.jp/su11/su1110/su111001/ 

ナースプラクティショナーの2年間の養成課程を修了し、日本NP教育大学院協議会の筆記試験に合格すれば、日本での診療看護師(NP)の資格を取ることができます。

また、アメリカやカナダなどナースプラクティショナーが活躍している国でナースプラクティショナーの資格を持っている人は、日本の修士課程で学ばなくても、試験に合格すれば、診療看護師(NP)の資格を取得できます。

日本での活躍の場

日本でナースプラクティショナー(診療看護師)の資格を持っていても、海外のナースプラクティショナーように診療を行うことはできませんが、ナースプラクティショナーとして何の活動もできないわけではありません。国立病院機構でなら、海外のナースプラクティショナーに近い活動をすることができます。

国立病院機構では、ナースプラクティショナーの養成をサポートしながら、海外のナースプラクティショナーと同じような活動の場を提供する試みを行っています。

また、国立病院機構で働き、5年の実務経験を経て、職場からの推薦を受けてナースプラクティショナーの養成課程がある大学院修士課程に進学すれば、国立病院機構研究休職制度の利用が可能で、修士課程在学中の2年間は休職扱いになりますので、基本給の70%が支給されるというサポートが受けられます。

日本でナースプラクティショナーになる以外の選択肢

日本ではナースプラクティショナー(診療看護師)の資格を取得しても、その知識やスキルを十分に活かせる環境が整っているとは言い難い状況ですので、キャリアアップを望むなら、日本のナースプラクティショナー(診療看護師)になる選択肢以外も視野に入れておきましょう。

日本でナースプラクティショナーになる以外のキャリアアップの選択肢には、より専門的で高度な看護を実践する専門看護師になる道や海外でナースプラクティショナーの資格を得る道があります。

専門看護師になる

日本のナースプラクティショナーになる以外の選択肢の1つ目は専門看護師になることです。専門看護師は専門的で高度な看護を患者さんやその家族に提供することができ、現時点で日本の看護職の中では最もレベルが高く、またその能力を発揮する場がきちんと用意されている資格です。

専門看護師は日本看護協会が認定している資格で、ナースプラクティショナー(診療看護師)同様に大学院の修士課程で学び、認定審査に合格する必要があります。

2015年現在、専門看護分野はがん看護、精神看護、地域看護、老人看護、小児看護、母性看護、慢性疾患看護、急性・重症患者看護、感染症看護、家族支援、在宅看護の11分野が特定されています。

専門看護師の活躍の場は、勤務する病院や専門分野によって異なりますが、「看護専門外来」等で専門性を活かした看護をすることができるのです。

海外でナースプラクティショナーになる

大学院でナースプラクティショナーになるための勉強をする必要があります

ナースプラクティショナーとして働きたいけど、日本ではどうしても法律の壁があり、ナースプラクティショナーとして満足できる仕事をする場がないと悩んでいる人は、海外でナースプラクティショナーの資格を取得するという選択肢もあります。

ナースプラクティショナーの制度を採用している国に留学して、ナースプラクティショナーの資格を得れば、日本人でもその国でナースプラクティショナーとして働くことができるのです。

ナースプラクティショナーの制度がある国はアメリカやイギリス、カナダ、オーストラリアなどがありますが、ここではアメリカでナースプラクティショナーの資格を取得するための方法をご紹介します。

Step1 英語力を身につける

アメリカでナースプラクティショナーになるためには、アメリカの大学院の養成課程を修了しなければいけませんので、大学院での授業を理解でき、さらにナースプラクティショナーとして働けるだけの語学力を身につける必要があります。

必要な語学力の目安としてはTOEFLのiBTが83以上となりますので、英語力が不十分な場合は、アメリカの語学学校などで英語力を身につけなければいけません。

Step2 登録看護師(Registered Nurse)の資格を得る

次に、日本の正看護師に相当する登録看護師(Registered Nurse)の資格を取得します。登録看護師になるためには、まずCGFNS(外国看護学校卒業生審議会 The Commission on Graduates of Foreign Nursing School)の試験に合格し、ATT(Authorization to Test)というアメリカ看護師資格試験(NCLEX-RN=National Council Licensure Examination- Registered Nurse)を受験するための許可証を取得しなければいけません。ATTはアメリカ各州の看護協会が、申請者の看護教育を審査して、適当であれば発行されます。

ただ、一部の州(カリフォルニア州やニューヨーク州)ではCGFNSの試験が免除されています。

NCLEX-RNはすべて英語で出題されますが、日本の看護師国家試験のようにマークシート方式ではなく、コンピューターを用いたCAT(Computer-adaptive test)という方式になります。

CAT方式はコンピューターに問題がプールされていて、受験者の正誤状況によって次の問題が選択されるため、問題数は最低で75問、最高で265問と人によって問題数が違うという特徴があります。

また、受験者の予定に合わせて受験予約をすることができることも、日本の看護師国家試験とは異なる点です。NCLEX-RNを受験し、試験に合格すれば、アメリカで登録看護師の資格を取得することができます。

NCELX-RNは、留学前に英語力を身につけている人は東京や大阪でも受験可能ですが、たいていの場合は語学留学後にアメリカで受験することになります。

Step3 看護学の学位を取得する

ナースプラクティショナーになるためには、大学院の修士課程か博士課程を修了する必要がありますが、アメリカの看護系大学院は、入学条件として看護学の学位(BSN=Bachelor of Science in Nursing)の取得を義務付けているところがほとんどです。

もし、日本で看護大学を卒業して看護学の学位を持っていて、それが大学院に認められれば、改めて学位を取得する必要はありませんが、日本では専門学校を卒業している人は、看護学の学位を取得する必要があります。

Step4 ナースプラクティショナーとして働く州を選ぶ

アメリカのナースプラクティショナーは、国家資格ではなく州資格ですので、州が違うと資格を取得し直さなくてはいけません。また、州ごとにナースプラクティショナーになるために必要な教育課程が多少違ってきます。

そのため、大学院を選ぶ前に、ナースプラクティショナーとしてどの州で働きたいのかを決めて、それから大学院を選ぶと良いでしょう。

Step5 大学院のナースプラクティショナーの養成課程で学ぶ

アメリカで登録看護師の資格を取り、さらに看護学位を取得したら、大学院に入学してナースプラクティショナーの養成課程で学びます。ナースプラクティショナーの養成課程は、修士課程と博士課程の2通りがあり、州や大学院、専門分野によって少しずつ異なります。

以前からアメリカの看護大学協会は、2015年までにナースプラクティショナーの養成課程は博士課程へ完全に移行すべきだと提言していますが、2015年現在、まだ修士課程でもナースプラクティショナーの資格取得は可能のままです。でも、今後どうなるのかはまだ不透明な状態なっています。

アメリカの大学院で、ナースプラクティショナーの養成課程を修了し、試験に合格すればナースプラクティショナーになることができます。

まとめ

日本と海外のナースプラクティショナー(診療看護師)の業務範囲は異なり、日本ではナースプラクティショナー(診療看護師)の資格を取得しても、海外のように診療ができるわけではありません。

ただ、国立病院機構のように診療看護師として海外のナースプラクティショナーに近い活動ができる場もありますし、看護師としての専門性を高めたいなら専門看護師になる道やナースプラクティショナーとして本格的に活動したいのであれば、海外に留学するという道もあります。

日本でナースプラクティショナー(診療看護師)を目指すにしても、専門看護師や海外でナースプラクティショナーを目指すにしても、今のあなたの職場環境はキャリアアップするのに適しているでしょうか?

キャリアアップするためには、大学院進学のための学費やキャリアアップのための看護経験が必要になりますが、今の職場は学費のための貯金ができて、キャリアアップの準備のための経験を積めるところでしょうか?

キャリアアップのためには、まずキャリアアップするための環境を整えることが大切になります。日本でナースプラクティショナー(診療看護師)を目指す人も、そのほかの道でキャリアアップする人も、今のあなたの職場環境がキャリアアップに適しているかどうか、一度見直してみてはいかがでしょうか?

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