危険!増加するモンスターペイシェントから身を守る5つのポイント

モンスターぺーシェントは危険な存在です。対処は協力して行いましょう。 看護師の仕事

[著者: 平野雅子 (看護師 /保健師).    more.. ]

あなたはモンスターペイシェントに遭遇したことがありますか?モンスターペイシェントの対応に困ったことはないでしょうか?

近年、モンスターペイシェントの増加が社会問題となっています。

モンスターペイシェントは、暴言・暴力、理不尽な要求等で看護師を苦しめる存在で、モンスターペイシェントによって、看護師が退職に追い込まれることもあります。

モンスターペイシェントに遭遇したら、「身の安全を確保」し、「よく話を聞き」ながらも、むやみに「謝罪せず」、「複数で対処」するようにしましょう。そして、必ず「師長に報告」してください。

この5つの対策を実践すれば、モンスターペイシェントからあなたを守り、被害を最小限にすることができるでしょう。

また、日ごろから患者さんとのコミュニケーションをしっかり取る事や対応マニュアルを作ることで、モンスターペイシェントを生み出さず、予防することができるのです。

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モンスターペイシェントとは

モンスターペイシェントは暴言や暴力を繰り返す理不尽でモラルがない患者のこと

モンスターペイシェントは暴言や暴力を繰り返す理不尽でモラルがない患者のことで、「患者様」という呼び方が広がったなどの背景と共に増加傾向にあり、社会問題となっています。

モンスターペイシェントによる被害は、身体的暴力、精神的暴力、性的暴力の3つに分けられ、また医療職者の中で看護師がモンスターペイシェントの被害をもっとも受けやすいという特徴があります。

モンスターペイシェントの定義

モンスターペイシェントとは、看護師など医療職者や医療施設に対して、理不尽な要求をしたり、暴言や暴力を繰り返すモラルがない患者のことです。

近年、学校ではモラルに欠けた保護者を「モンスターペアレント」と呼び、社会問題化していますが、医療現場でもモラルに欠けた患者が増加していて、そのような患者を「モンスターペイシェント」と呼びます。

モンスターペイシェントは理不尽な要求を無理やり通そうとしたり、医療職者側に非がないのに言いがかりをつけてきたり、大声で暴言を吐いたり、挙句の果てに暴力を振るってくる患者のことですので、ただのクレーマーとは違い、医療職者側に被害をもたらす存在であるという特徴があります。

モンスターペイシェント誕生の背景

ここ数年でモンスターペイシェントが増加していますが、増加している理由は、(1)「患者様」という呼び方が広がったこと、(2)医療の発達、(3)患者側のモラルが低下したことの3つが挙げられます

平成13年に厚生労働省の「国立病院・療養所における医療サービスの質の向上に関する指針」の中で「患者の呼称の際、原則として姓名に『さま』を付することが望ましい」という通達が出されたことにより、全国的に「患者様」という呼び方が広まりました。

このことで患者側に自分はお客様であるという認識が植えつけられ、わがままを言っても許されると考えるようになった人が増え、モンスターペイシェントの増加につながったとされています。

また、医療は日々進歩していますが、医療の発達により、「病気は治るのが当たり前!」と医療への過度な期待が寄せられるようになり、自分の期待とは違う結果になった時、モンスターペイシェントと化すことがあります。

そして、「できれば医療費は支払いたくない」、「病院内で起こったマイナスのこと、不快な出来事はすべて『医療事故』と考える」などの患者側のモラル低下もモンスターペイシェントの増加の一因となっています。

モンスターペイシェントによる被害の実態

モンスターペイシェントによる医療職者の被害は、身体的な暴力、精神的な暴力、性的暴力の3種類に大きく分けられ、精神的な暴力の被害率が高くなっています。

また、看護師はほかの医療職者に比べて、身体的な暴力、精神的な暴力、性的暴力共に被害率が高いという特徴があるのです。

【 職種別の過去1年間に患者からの暴力の経験率 】

職種別の過去1年間に患者からの暴力の経験率のグラフ

【 看護師の種類別暴力の経験率 】

看護師の種類別暴力の経験率グラフ

身体的暴力の主なもの
手やモノで殴られた つねられた 足でけられた ひっかかれた 物を投げつけられた
精神的な暴力の主なもの
大声で怒鳴られた 何度言っても無視された 人前で馬鹿にされた、叱られた 殴る等のフリをされて脅された 雑用を押し付けられた
性的暴力の主なもの
性的な話を聞かされた 交際、性交、結婚、妊娠等でからかわれた 胸、太もも、お尻等を触られた

出典:友田尋子、三木明子、宇垣めぐみ、河本さおり著「患者からの病院職員に対する暴力の実態調査-暴力の経験による職種間比較―」 甲南女子大学研究紀要第4号看護学・リハビリテーション学編(2010年3月)

看護師がモンスターペイシェントの被害を受けやすいのは、患者さんに接する時間がもっとも長く、患者さんにもっとも近い立場の医療職者であること、そして、看護師は女性が多く、モンスターペイシェントから自分より弱い立場の人間であると看做されて、ターゲットになりやすいからという理由があるためと考えられます。

モンスターペイシェントの事例

モンスターペイシェントによる看護師が受けた被害の一例をご紹介します。

【事例その1】
患者に点滴するためにベッドサイドに行き、点滴の説明をしていたところ、患者が輸液セットの針の部分を持ち、看護者を刺そうとした。

【事例その2】
救急外来で「前もずいぶん待たされたが、今日はそんなに待たせないだろうな!」と脅すような口調で言う。

【事例その3】
介助なしでシャワー浴が可能な患者が「陰部を洗って欲しい」と看護者に強要した。

出典:社団法人日本看護協会「保健医療福祉施設における暴力対策指針-看護者のために-」(PDF)

モンスターペイシェントによる看護師への影響

モンスターぺーシェントによる被害を受けると看護師を辞めたくなる事もあります。

モンスターペイシェントから被害を受けると、看護師は精神的に疲弊します。そして、最悪の場合、看護師を続けられなくなるほどの精神的なダメージを負うこともあるのです。

【 院内暴力を受けた際の思いや気持ち 】

院内暴力を受けた際の思いや気持ちのグラフ

出典:「都内私立大学病院本院の職員が患者・患者家族などから受ける院内暴力の実態」(私大病院医療安全推進連絡会議共同研究) 日本医療・病院管理学会誌(2013年7月)

データからもわかるように、モンスターペイシェントから身体的、精神的、性的暴力を受けること、マイナスの感情を持ちます。

そして、このデータで注目すべきなのは、「退職したいと思った」、「死にたかった」と回答した人がいることです。

モンスターペイシェントから被害を受けると、マイナスの感情を持つだけではなく、そのまま看護師の仕事を続けていくのが困難だと感じ、退職に追い込まれることもあるのです。

モンスターペイシェントに遭遇した時の対策

モンスターペイシェントに遭遇した時は、まずは身の安全を確保しましょう。

そして、事態を悪化させずに改善するために、むやみに謝罪せず、相手の話をよく聞き、複数で対応するようにしましょう。また、あなたが経験したケースを師長に必ず報告してください。

こうすることで、モンスターペイシェントからあなた自身を守り、モンスターペイシェントからの被害を最小限に留め、今後に活かすことができるのです。

身の安全を確保する

モンスターペイシェントに遭遇したら、まずは身の安全を確保しましょう

人の目のある場所で対応するようにしないと、あなたに身の危険が及ぶ場合があります。

身の安全を確保するために、対応は人目のあるところに移動して行い、暴力を受ける可能性がある場合はその場から逃げてもかまいません。

モンスターペイシェントは、殴る蹴る等の身体的暴力に及ぶ場合がありますが、ひどいものになると「首をしめる」、「刃物などを突きつけられる」などの怪我をする、命を失う可能性がある暴力に及ぶことももあるんです。

女性看護師1人で興奮しているモンスターペイシェントの対応を安全にできるとは限りませんので、モンスターペイシェントに遭遇し、対応をする時は必ず人目のあるところに移動し、身の安全を確保するようにしましょう。

むやみに謝罪をしない

怒っている相手、怒鳴りつけてくる相手には、思わず「すみません」、「申し訳ありません」と謝ってしまいがちですが、モンスターペイシェントには、むやみに謝罪をしてはいけません。

ただ「怒っているから」、「怖いから」という理由で謝罪してしまうと、事態をより悪化させる可能性があるのです。

あなたが明らかに悪いこと、間違ったことをして患者さんが怒っている時は、誠意を持って謝罪しなければいけません。

でも、モンスターペイシェントは理不尽に暴言や暴力を繰り返す存在であり、あなたや医療施設側は何の落ち度もないのに、怒鳴りつけて怒ることがあります。

そういう相手にむやみに謝罪をすると「謝罪をした=非を認めた」ことになり、モンスターペイシェント側が「自分が正しい」と思い、土下座を強要するなど要求がエスカレートしたり、収拾がつかなくなることもあるのです。

よく話を聞く

突然怒鳴りつけてくるようなモンスターペイシェントに遭遇した場合は、身の安全を確保した上で、なぜ怒っているのか、何を要求しているのか、きちんと話を聞くようにしましょう。

「病院に働く看護師が受ける暴力の特徴と要因(第2報)」によると、看護師に対し暴力行為に及んだ患者に「怒っている時にどうしてほしいか」という質問をしたところ、「黙って話を聞いてほしい」という回答がもっとも多くなっています。
(清水房枝、瀬川雅紀子、種田ゆかり、高植幸子、伊津美孝子、平野加代子「病院に働く看護師が受ける暴力の特徴と要因(第2報)(PDF)」

なぜ怒っているのか、何を要求しているのかをきちんと聞くことで、相手の怒りが鎮まることがあるんです。

あなたも言いたいことを言った後にスッキリした経験があると思います。モンスターペイシェントも同じです。

あなたがしっかり話を聞いて、言いたいことをすべて言ってもらえばスッキリして怒りが鎮まることがあるのです。

相手の話を聞く時は、「きちんと聞いています」と相手に伝わるように、うなづいたり、「はい」、「なるほど」など相槌を打つこと、途中で自分の意見を挟むなど相手の話を遮らないように注意しましょう。

1人で抱え込まずに周囲を巻き込む

モンスターペイシェントの対応は1人で行わず、周囲のスタッフを巻き込んで複数で行うようにしましょう。

1人で対応すると精神的な負担が大きいですし、相手もあなたが1人だけだからとより高圧的な態度で接してくることもあります。

そのため、1人で抱え込まず、周囲のスタッフに助けを求めモンスターペイシェントには複数で対応する必要があるのです。

この時に助けを呼ぶスタッフは、できれば年配の男性スタッフを呼ぶようにしましょう。また、師長等管理職でもかまいません。

モンスターペイシェントは、自分よりも立場の弱い人間に高圧的な態度をとる傾向にありますので、若い女性看護師はモンスターペイシェントのターゲットになりやすいのです。

自分よりも立場が強いと思われる人間、つまり女性よりも男性、若い年代よりも40代以上の年代、また役職についている人は理不尽な怒りを向けづらくなりますので、モンスターペイシェントからの被害を最小限に抑えることができるのです。

実際に、「患者からの病院職員に対する暴力の実態調査-暴力の経験による職種間比較―」によると、患者からの暴力は男性よりも女性のほうが被害経験率が高く、若い年代のほうが被害経験率が高いという調査結果が出ています。

また、複数で対応すれば、1人は対応し、1人は詳細な記録を取ることが可能ですから、万が一訴訟などの事態に発展しても、それを記録を証拠として提出することもできます。

必ず報告する

モンスターペイシェントに遭遇したら、必ず師長に報告しましょう。

あなた1人で抱えて込んでいては解決しない問題も、師長に報告し、部署全体、または施設全体で対応することで、すぐに解決する場合があります。

また、師長に報告すれば、職場全体でモンスターペイシェントの事例を共有でき、次にモンスターペイシェントに遭遇したらどう対応するかなどを考え、検討することができるのです。

先ほどもお話しましたが、モンスターペイシェントは相手を選んで、立場の弱い人をターゲットにする傾向があります。

ということは、立場が強い人である師長や事務長などが対応すれば、モンスターペイシェントの怒りは収まり、すぐに解決することもあるのです。

また、あなたはモンスターペイシェントに遭遇し、対応したことで精神的なダメージを負っています。

それを師長に話して聞いてもらうだけでも、精神的に楽になりますし、必要であれば院内でカウンセリングを受けたり、心療内科や精神科を受診する手続きをしてくれることもあります。

モンスターペイシェントの予防法

モンスターペイシェントからの被害を予防し、最小限にするためには、日ごろから患者さんとのコミュニケーションを大切にすることが有効です。

不満を早めに解決し、モンスターペイシェントを生み出さないようにするのです。

また、部署内・施設内で対応マニュアルを作り、職員内でモンスターペイシェントにどう対応すべきかの共通認識を持っておくことで、いつでも適切な対応を取れるようになります。

患者さんとのコミュニケーションを大切にする

モンスターペイシェントを生み出さないためには、日ごろから患者さんとのコミュニケーションを大切して、お互いに理解を深めておく必要があります

コミュニケーションをしっかり取って、誤解が生まれないようにすること、患者さんの不満を初期段階で解決しておけば、モンスターペイシェントを生み出さずに済むこともあるのです。

【 院内暴力の要因は医療者側にもあったか? 】

院内暴力の要因は医療者側にもあったか?

【  院内暴力に至った医療者側の誘因  】

院内暴力に至った医療者側の誘因のグラフ

出典:「都内私立大学病院本院の職員が患者・患者家族などから受ける院内暴力の実態」(私大病院医療安全推進連絡会議共同研究) 日本医療・病院管理学会誌(2013年7月)

この「院内暴力に至った医療者側の誘因」のデータを見ると、しっかりコミュニケーションを取っておけば、モンスターペイシェントを生み出さずに済んだケースもあることがわかります。

そのため、モンスターペイシェントを予防するには、日ごろから患者さんとしっかりコミュニケーションを取って、患者さんの不満を早めに把握し、解消しておく必要があるのです。

部署内・施設内での対応マニュアルを作る

部署内や施設内でモンスターペイシェントへの対応マニュアルを作り、共有しておくことでも、モンスターペイシェントの被害を最小限にすることができます。

モンスターペイシェントに遭遇したら、まずどうすべきか、どう対応すべきかの手順や対応方法などを職場内で決めておいたり、ロールプレイイングでモンスターペイシェントが来た時のシュミレーションを行っておけば、実際にモンスターペイシェントに遭遇しても、慌てずに最善の方法で対応することができます。

あなたが主導して対応マニュアルを作ることは難しい場合も多いと思いますので、まずは師長や主任などに「モンスターペイシェントが来たらどうすれば良いですか?不安なんですけど。」のように相談してみることから始めましょう。

まとめ

モンスターペイシェントに遭遇すると、あなたの想像以上に心はダメージを受けています。そして、そのダメージを放っておくと、うつ病になってしまうこともあるんです。

「ひょっとして私、うつかな?」と思ったら、早めの対策が肝心です。まずは「うつ病かどうかをチェックしましょう。
(引用:「私、うつ?」看護師さんなら先ずすべき1つの簡単チェック

モンスターペイシェントのせいで、うつ病になり看護師として働けなくなるのは悔しいですよね。ですから、早めにチェックして、必要な対策をすることが重要なのです。

また、モンスターペイシェントに遭遇する確率をできるだけ減らしたいなら、転職を考えても良いでしょう。

救急外来や小児科、産婦人科などが多い傾向にありますので、これらの部署で働いているなら、自分自身を守るために、異動・転職を視野に入れても良いかもしれません。

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コメント

  1. […] んとトラブルを起こしたり、理不尽なクレームをつけてくるような患者さんも要注意の患者さんになります。(参考:危険!増加するモンスターペイシェントから身を守る5つのポイント) […]

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